私の愛する一点


作者不詳 切り通しの写生
不詳 油彩 キャンバス 45.6X53.2

「入手経緯」
 今から18年程前、さる美術商の店内に、無造作に積んであった絵画の一番下にあったもの。

状態
 当初は埃まみれ、かつ画面は黒く汚れて判然としなかったが、根気良くクリーニングしていった結果、画面がだいぶはっきり見えてきた。ただし、絵具の剥落もあり、かつ、ひび割れ無数、決して良い状態ではないが、出来るだけ制作当初の状態をこわさぬようにと、あえて修復はしてはいない。

「作者は誰か」
1 この絵画の額装を依頼した某額縁店でのこと、そこの老職人が「永年勤めたこの店を退職する最後の仕事に、久し振りに草土社の(それも一政の)良い絵画を額装させて貰えて大変嬉しい。」と語っていたのが印象に残った。ちなみに当方は、この作者は誰だとか一言も喋ってはいない。なお、この絵画の画面の表にはなぜかサインの消された跡が残っており、他方、裏のカンバスの木枠に「1912年9月20日劉生写」と書いてあった。
2  数年前、美楽舎のマイコレクション展に作者不詳として出品した時のこと、日本橋の老舗の画廊のご主人が入って来られ、「あっ、こんなところに、一政の、それも初期のものがある。」と語っていた。
3 当館の梅野館長も「大正の絵画(原色日本の美術5/小学館)のページを開き、この色づかいといい、一見稚拙に見える(それでいて味わい深い)樹の描写といい、中川一政の初期の作、そっくりではないかと、ご指摘、ご教示を頂いた。
 いずれにしても草土社の同人(それも中川一政?の初期)の力作、少し離れて見ると、切り通しの土の層が生きている仲々の作と思いますが、皆さんは如何か。

松尾 陽作


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